社会的ニーズに応え、「変化と新しい価値の創造」に挑戦するエスイーグループ
 

社会インフラの老朽化対策、防災・減災を担う既存事業の安定的な成長を図りながら、戦略的M&Aの推進や海外事業展開を通じて、成長事業の拡大および新規事業の創造に挑戦するエスイーグループ。その事業の現状や将来に向けた成長戦略などについて、今年も株式評論家の櫻井英明氏が森元峯夫会長に話を聞きました。

森元峯夫
(株)エスイー代表取締役会長。(株)アンジェロセック代表取締役CEO。工学博士。フランス共和国国家功労賞コマンドゥール勲章、国際プレストレストコンクリート連合FIPメダルなど受賞多数。

櫻井英明
ストックウェザー「兜町カタリスト」編集長。最新経済動向を株式市場の観点から分析した独特の未来予測に定評がある。ラジオNIKKEIでは火曜「ザ・マネー 櫻井英明のかぶとびら」、木曜「櫻井英明の投資知識研究所」などに出演。

M&Aも奏功し、旺盛な需要を背景に順調に事業が成長

森元峯夫
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森元峯夫

櫻井 まず、ここ最近の日本や世界の変化をどのように捉えていらっしゃるかお聞かせください。
 

森元 国内を見れば、超高齢化社会の進展によって働き手不足が深刻化していますが、私は、これは新しい産業が誕生するきっかけになると思っています。また、平成の最後10年間は、特に多くの自然災害に見舞われました。我々も日夜、復旧に努めましたが、災害の頻発・激甚化が顕著になってきていますね。
 

櫻井 世界に目を向けると、新興国でのインフラ整備も進んできていますね。
 

森元 当社が注力している市場の一つにベトナムがあります。日系企業の製造拠点が中国からベトナムへとシフトする中で、ベトナムではインフラ整備も加速し、人口9,000万人で7%の経済成長を実現しています。またアフリカも、依然として紛争地域はあるものの、南アフリカや西アフリカの石油産出国は社会的に安定し、港湾をはじめとするインフラ整備が進んできています。

櫻井英明
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櫻井英明

櫻井 そうした世界のインフラを支える御社の現状を伺いたいと思います。まず事業全般の状況はどうですか。
 

森元 2018年1月にグループ化したA&Kホンシュウのホンシュウ事業部が、建設用資機材の製造・販売事業の好業績に寄与しています。さらに都心オフィスビルの空室率が1.9%と稼働率が非常に高い中で、東京オリンピック関連や都心再開発の工事も順調に進捗しており、旺盛な需要に支えられ、今後3–4年間は安定した伸びが期待できます。また、1970年代に整備された橋梁やトンネル、道路等の老朽化対策として維持管理や更新などの需要もあり、補修・補強工事を手掛けるエスイーリペアを中心にさらなる成長が見込めます。

櫻井 M&Aが奏功してきているということですね。

 

森元 そうですね。A&Kホンシュウは優秀な人材と高い技術を武器に、非常に成功したM&Aだと評価しています。エスイーリペアも従来の橋梁・トンネル分野に加え、水力発電所の導水路補修分野で大型工事を相次いで受注しており、選別受注ができる状態となっています。利益重視型の経営を推し進め、さらに利益率の高い会社へと成長させていきたいですね。

 

櫻井 災害復旧関連ビジネスはいかがですか。

 

森元 地震、津波、豪雨・豪雪、地滑り、河川の氾濫など、昨今の自然災害の激甚化・頻繁な発生を受けて、昨年12月に「防災・減災、国土強靭化のための3か年緊急対策」が閣議決定されました。こうしたインフラ整備のほとんどに当社は携わっていますが、国の予算も従来の6兆円強から7兆円へと拡大しており、しばらくは旺盛な需要に支えられて堅調に推移すると見ています。

オリンピック開催でさらに進む、真の国際化と地方創生

櫻井 東京オリンピックも控えています。私には、政府が東京オリンピックをゴールというよりスタートだと捉えているようにも思えますが。
 

森元 私もそう思います。オリンピック開催によって、例えば大きなスタジアムを建設すれば、それは周辺のインフラ整備にもつながりますから、大きな刺激となります。加えて、今回のオリンピック開催を、日本が本当の意味で国際化するためのきっかけにしようとしているようにも思えます。私たち自身が国際化するのだと国民一人ひとりが認識する、新しい国際化の時代到来を意味していると思います。

 

櫻井 2020年以降を見据えたレガシー創出のための「beyond2020プログラム」も地方創生と推進されていますしね。
 

森元 地方創生こそが日本を強くする源だと思って、当社では地方創生にも力を入れています。現状は、まだまだ文化・生活・経済の面で地方を十分に活かせていませんが、おもてなしも含めてオリンピック開催が地方創生に大きなインパクトにつながればと思っています。1964年の東京オリンピックは、私は留学先のフランスで見ていたんです。その時、フランス人の友人らが、発展途上国とされていた日本に走っている新幹線の映像を見て、日本はすごい国だねと言ってきまして、ひときわ感動したことを思い出します。今回も、地方都市の交通インフラの利便性向上に弾みがつけばと思っています。

アフリカ・ベトナムを中心に 世界へ広がるエスイーの海外事業

櫻井 海外ではどのような事業展開をされていますか。
 

森元 一つはフランスの大手建設エンジニアリング会社INGÉROP社と合弁で設立したアンジェロセックの事業があり、アフリカのフランス語圏での事業展開を通じて非常に伸びています。INGÉROP社がアフリカに展開している3つの子会社と連携しながら、フランスのシステムや仕様書をフランス語で提供できるため、現地政府からも高く評価され、道路、橋梁、河川堤防などの防災施設の調査、計画、設計および施工監理において、当社グループをプロジェクトのリーダーとして選定していただける機会に多く恵まれています。

 

櫻井 アフリカは非常に魅力があるんですね。
 

森元 そうですね。もう一つはベトナムで、PPPを通じて、全橋長5kmの日越友好の橋であるバクダン橋を架け、昨年9月に開通しました。

 

櫻井 5kmの橋って、とても長いですね。

 

森元 とても長いです。当社は2007年にベトナム国立建設大学の付属機関と共に日越建設コンサルタント(VJEC)を設立し、ベトナムの大規模国策事業であるハノイ―ハイフォン間の高速道路の施工監理業務をVJECが受注しました。高速道路の建設では、山の地滑り対策が欠かせませんので、当社は今後「ESCON」の技術提供も行っていきます。そしてベトナムを拠点に、隣国のカンボジア、ラオス、さらにはインドネシアやマレーシアへの展開も検討しています。
PPP:Public Private Partnership(官公庁と民間の提携事業方式)

CO2も放射性物質も出さない 新エネルギー発電事業の実用化に向けて

櫻井 新規事業という意味で、エネルギー関連事業はどうですか。
 

森元 エネルギー関連では、風力・太陽光といった代替エネルギーの利活用が発展途上の中で、CO_{2}と放射線問題に今後どう対処していくかが世界的な課題となっています。その中で当社では、CO_{2}も放射性物質も発生しないエネルギー発電の研究開発を進めてきました。実験装置の大型化や人材の強化を図り、数種の基本特許も取得しました。今年度、基本モデルの設計、製作、工場建設の検討など、実用化に向けたさらなる準備を進め、2022年度には新エネルギーによる発電開始を目指します。これからの時代は、消費地に近いところでCO_{2}も放射性物質もない発電が可能になる。そうイメージしていただければと思います。

 

櫻井 安心・安全であれば、住宅地の近くにも発電所が置けるようになりますね。
 

森元 そうです。加えて、送電線の問題も起きないシステムにもなります。地方の産業と絡めることで、地方創生にもつながります。海外でも、電力インフラの整備されていない地域に燃料工場を作れば、大きな社会貢献になると思います。人のため、国のため、社会のためになる事業であり、私もライフワークとして進めていきます。

M&Aと発電事業、そして「ESCON」が成長ドライバーに

櫻井 完成が楽しみですね。次にグループの成長戦略について教えてください。これまでもM&Aで事業を拡大されてきましたが、そこで重視されるポイントはどういう点ですか。

 

森元 M&Aにおいては、優秀な人材、優れた技術であることに加え、事業を育成することで将来性があるかという視点も大事にしています。

 

櫻井 成長力を持っているかどうかということですね。

 

森元 そうです。当社はまだ小さな会社ではありますが、M&Aと発電事業、そして「ESCON」が当社の成長を牽引していきます。

 

櫻井 その「ESCON」について、成長力となる背景等を教えてください。

 

森元 2025年には日本の平均年齢は51歳と世界最高齢社会になることが予測されています。また、年間出生数はすでに100万人を割っており、若年層の減少も深刻化していきます。高齢化社会が進展すると税収が減り、人口減により自動車台数も減少していきますから、高速道路等の修繕に必要な財源が減っていきます。加えて自然災害が増加している。そのような中で、社会インフラにも、100年以上の耐久性のあるものが求められています。「ESCON」は、高強度のコンクリートの使用により構造部材の軽量化が可能になるだけでなく、腐食劣化しないコンクリートの使用により耐久性が向上し、構造物の長寿命化および維持管理費・更新費の大幅な削減が可能となる、この時代の要請に応える画期的な工法・技術です。

 

櫻井 「 ESCON」の将来性に自信を持っていらっしゃるのですね。

 

森元 ゆるぎない自信があります。

 

櫻井 高速道路が完成すると、その「ESCON」が外から見えなくなってしまうのがとても残念ですよね。

 

森元 そうなんです。ですから会社の中身をもっと見えるようにPRにも注力しなければいけませんね。

 

櫻井 “ 見える”という意味では、昨年北海道で起きた地滑りの映像がとても脅威でした。

 

森元 日本には地滑りの危険性がある箇所が2万超あり、また2,000超の活断層もあると言われています。しかし予算の関係上、災害後に直していくという後追いでの対応しかできていないのが現状です。災害大国ですから、本来は災害を未然に防げるような体制にしていかなければなりません。

 

櫻井 そういう意味では、技術や能力のさらなる活用が求められるのだと思いますが。

 

森元 そうです。そのためには、いつまでも税金を使って安定を図るのではなく、他の産業と同じように競争の原理をもう少し入れていかないといけません。事業は国のため、人のために益するものでないと伸びていきません。また、成長しない企業には人材も育たない。だから経営者は、会社を成長させるためにいろいろな施策を打っていかなければいけないと考えています。

 

櫻井 明治時代の土木工学者が「私が一日休むと国家の発展が一日遅れる」と言ったエピソードもありましたが、まさにそういう状況ですね。

利益重視の経営でさらなる成長を図る

櫻井 最後に、前期業績と今後の業績見通しについて教えてください。

 

森元 利益重視の経営は今後も変わりません。2018年度は売上224億円/経常利益10億79百万円であったのに対し、2019年度は売上228億円/経常利益11億50百万円を目標とします。中期的には2021年度に売上250億円/経常利益13~14億円の達成を目指し、2023年度には既存の各社事業の売上高の総計として300億円、経常利益20億円の規模へと成長させていきたいと思います。また、M&Aも引き続き積極的に検討していきます。

 

櫻井 エスイーグループのさらなる成長を楽しみにしています。新しいエネルギーが開発されましたら、発電所も見学させてください。本日はありがとうございました。

インタビューを終えて
「豊かな社会環境、自然との調和を目指し、新しい価値を提供しつづける」という基本姿勢のゆるぎなさを何度も感じた取材でした。環境の変化はあるものの「内外の国家のインフラ建設と整備」に対する原点がブレないことは重要なファクター。「利益優先」経営の徹底と戦略的M&A効果で売上高・営業利益は伸長。「世界的エンジニアリングメーカー」の完成への道を歩まれている様子。「エスイーグループの進歩が一日遅れれば、世界のインフラの発展も一日遅れる」のだという印象を受けました。

櫻井英明